桜の季節

<福祉移送サービス ピクニック  村越信一さん>

 

開業後、半年が過ぎ初めてのお花見の季節のことでした。

ケアマネージャーさんから、

「末期癌の利用者さんを車でお花見に連れて行ってほしい」

との依頼が入りました。

 

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4月も中旬に入り、葉桜になりつつある頃でしたが、

当日は看護士さん、ケアマネさん、ヘルパーさんと利用者さんの奥様とともに、

寝台にて、上野公園辺りへ車を走らせました。

木々が車道を覆う場所に車を停めると、

看護士さんの 「きれいだね~」 という問いかけにゆっくりうなずき、

言葉は聴き取れませんでしたが、返事を返していました。

桜はほとんど散った後でしたが、春の花・春の木々を、

車内で寝たままの状態で鑑賞していただき、

約1時間の短いドライブを終え、またご自宅へと帰りました。

 

その後1週間が過ぎた日に、利用者さんがお花見に行った翌日に

亡くなったことをドライバー仲間から知らされてびっくりしました。

「なんで翌日なの?」

もしも自分がお花見に連れて行かなければ、

1週間は、いや少なくとも3日は、いやそれ以上生きていたかもしれないのに?

「せめて亡くなるのは1週間後くらいにしてほしかった」

そうすれば私も何も考えずにすんだのに。

 

しばらく、ドライバー仲間、また他の人たちと飲む機会があるとその話をしました。

10人中10人が、「良いことをしたじゃないの」

「間に合って最後に花見ができてよかったのよ」

と私に言葉を返してくれましたが、当事者としては複雑な思いでした。

 

その後毎年、春になるとお花見の依頼が入ります。

幸いにして同様なケースはありませんが、

同じような状態の利用者さんから連れて行ってといわれれば、

やはりまた車を走らせることとおもいます。 

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